この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
Re:again
第10章 【微熱への処方箋】
*****

刻を忘れたようにスケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。
今はもう、どこで何をしているのかもわからない。
私があの街の生活と共に捨てた存在。

どうか―
願わくば、《彼》が傷付き、苦しむような出来事が起きませんように。

昨夜の七夕飾りが付けられた笹を眺める。
この笹もじきに処分しなくてはいけない。
あんなに楽しかった夜も、既に過ぎ去ってこの部屋には私ひとり。
どんなに楽しい時間も過ぎ去り、すべて忘れ去られる。

《皆が幸せになれますように》

私はあの時、本気で心からそう願った。
あの瞬間がとても楽しくて、モラトリアムの中での【夢】のような時間だと知っていたからこそ、皆の幸いを願った。

ずっといっしょになんかいられるはずがない。
詰られた通り、私は誰のことも傷付けたくないと甘いことを考えている。

過去と向き合うことから闇雲に逃げてきたこの5年間。
誰かと深く関わり合うことを避けてきた。

もう一度、スケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。

―背伸びをし、昨日書いた短冊にある一言を書きこんだ。
実に些細な一言。
それでもこれが、私の思いの丈。

*****

スケッチブックを閉じる時、数枚のスケッチが畳の上に散らばった。
いずれも桃の絵だった。
柔らかな果汁滴る、芳しい桃。
今よりは腕が落ちていない、私の絵だった。
それらのスケッチを広げていつまでも眺めていた。
自分が捨てたもの、なくしたものに想いを馳せるために。

―開け放した窓から夏の夜風がスケッチブックのページをさらう。

その日、白夜のように空はいつまでも煌々と燃えていた。





*****
/395ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ