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Re:again
第10章 【微熱への処方箋】
*****
刻を忘れたようにスケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。
今はもう、どこで何をしているのかもわからない。
私があの街の生活と共に捨てた存在。
どうか―
願わくば、《彼》が傷付き、苦しむような出来事が起きませんように。
昨夜の七夕飾りが付けられた笹を眺める。
この笹もじきに処分しなくてはいけない。
あんなに楽しかった夜も、既に過ぎ去ってこの部屋には私ひとり。
どんなに楽しい時間も過ぎ去り、すべて忘れ去られる。
《皆が幸せになれますように》
私はあの時、本気で心からそう願った。
あの瞬間がとても楽しくて、モラトリアムの中での【夢】のような時間だと知っていたからこそ、皆の幸いを願った。
ずっといっしょになんかいられるはずがない。
詰られた通り、私は誰のことも傷付けたくないと甘いことを考えている。
過去と向き合うことから闇雲に逃げてきたこの5年間。
誰かと深く関わり合うことを避けてきた。
もう一度、スケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。
―背伸びをし、昨日書いた短冊にある一言を書きこんだ。
実に些細な一言。
それでもこれが、私の思いの丈。
*****
スケッチブックを閉じる時、数枚のスケッチが畳の上に散らばった。
いずれも桃の絵だった。
柔らかな果汁滴る、芳しい桃。
今よりは腕が落ちていない、私の絵だった。
それらのスケッチを広げていつまでも眺めていた。
自分が捨てたもの、なくしたものに想いを馳せるために。
―開け放した窓から夏の夜風がスケッチブックのページをさらう。
その日、白夜のように空はいつまでも煌々と燃えていた。
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刻を忘れたようにスケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。
今はもう、どこで何をしているのかもわからない。
私があの街の生活と共に捨てた存在。
どうか―
願わくば、《彼》が傷付き、苦しむような出来事が起きませんように。
昨夜の七夕飾りが付けられた笹を眺める。
この笹もじきに処分しなくてはいけない。
あんなに楽しかった夜も、既に過ぎ去ってこの部屋には私ひとり。
どんなに楽しい時間も過ぎ去り、すべて忘れ去られる。
《皆が幸せになれますように》
私はあの時、本気で心からそう願った。
あの瞬間がとても楽しくて、モラトリアムの中での【夢】のような時間だと知っていたからこそ、皆の幸いを願った。
ずっといっしょになんかいられるはずがない。
詰られた通り、私は誰のことも傷付けたくないと甘いことを考えている。
過去と向き合うことから闇雲に逃げてきたこの5年間。
誰かと深く関わり合うことを避けてきた。
もう一度、スケッチブックの中の《彼》の笑顔を見つめる。
―背伸びをし、昨日書いた短冊にある一言を書きこんだ。
実に些細な一言。
それでもこれが、私の思いの丈。
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スケッチブックを閉じる時、数枚のスケッチが畳の上に散らばった。
いずれも桃の絵だった。
柔らかな果汁滴る、芳しい桃。
今よりは腕が落ちていない、私の絵だった。
それらのスケッチを広げていつまでも眺めていた。
自分が捨てたもの、なくしたものに想いを馳せるために。
―開け放した窓から夏の夜風がスケッチブックのページをさらう。
その日、白夜のように空はいつまでも煌々と燃えていた。
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