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第10章 【微熱への処方箋】
「ミーコはこんな俺のコト、責めないでいてくれたじゃん。
気持ち悪くない、このままでいいって味方してくれたろ?
だから、もしもミーコが間違っていて世界中の人間がミーコを糾弾したとしても、俺だけはミーコの味方でいるよ」

*****

真央の部屋で買ってきたものをすべて平らげ、またギターを弾いてもらった。ひとしきり唄う。

「祭りなんかに連れ出してごめん‥」

時折、真央が憂いた。
私は首を横に振る。
真央は悪くない。
すべては私の心の中の問題だ。
バイトに出掛ける真央を見送る。

「見送ってくれる誰かがいるのはいいな。
寂しくない。俺はミーコがココにいてくれて、嬉しいよ」

何の邪気もない笑みで真央が言う。
私も、この子と同じような時代があったのだろうか?
もしもその頃の私に逢えるなら抱き締めてやりたい。
そして問い掛けてみたい。

“どうしてそんな無防備な笑顔で、生きていられるの?
どうして心を歪ませずに、笑うことが出来るの?”

*****

部屋の隅に立て掛けたスケッチブックを開く。いつかの私が描いた絵。静物。風景。人物。
制服姿の微笑みを浮かべたマイコ。
学食のカフェテラス。
当時の恋人。
それから、部活を盗み見して描いた爽介。
何も知らない、わかっていない馬鹿な私。
幼い私の欠片たち。

ページを捲ると、急にビル群の風景画に変わる。
《彼》と過ごしたあの部屋の窓からの景色。
この田舎とは空の色も海の色も違う、山などなくビルに覆われた‥あの街の景色。

酒ばかり浴び、復讐のように複数の男と寝た“日常”。
顔も名前も覚えず、抱かれては放り出し、捨てられては抱かれた【あの日々】。
そんな中で私の部屋に居座った気の良い男。
はね除けてもはね除けても微笑んでいた《彼》。
心がすっかり壊れてしまっても、ふたりでの生活がたち行かなくなっても私のそばにいようとしてくれた《彼》―

『リョウヘイ‥』

《彼》の絵を描いていたことなんてすっかり忘れていた。
私が描いた《彼》は、小首を傾げたポーズで淡く微笑んでいた。

*****
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