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Re:again
第13章 【さよならの向こう側】
荷物を積み、黒い乗用車の助手席に乗り込む。
葵が物言いたげな瞳で真央と立ち尽くしていた。
何か言葉を掛けたいような気がしたけれど、言葉が見つからなかった。
葵の瞳をただじっと見つめる。
静かに車は動き出した。
「―みーちゃんが思っているようなことは、何もないんだ。
爽ちゃんが帰ってきたら話し合いな…」
孝介の穏やかな声を、遮るようにポツリポツリとフロントガラスに雨雫が落ちる。
いつの間にかあたりは薄暗くなっていた。
『―孝ちゃんが言ってた、爽介の隠し事って奥さんのこと…?
この前ふたりが言い争いしていたのはこれが原因…?』
孝介が息を飲む。
「――そうだよ‥だけど奥さんじゃない。
元奥さんだ。
離婚はとっくに成立してる…大丈夫。
お兄ちゃんが好きなのはみーちゃんだけだよ」
顔は前方を向いたまま、孝介の手のひらが私の髪を撫でた。
爽介と結婚することは赦さないと口にした時と同じ真剣さで、私を慰めてくれる。
今、わかった。
孝介がどんなに私を心配してくれていたか。
私が爽介の秘密を知った時のことを、どんなに恐れていたか。
憎まれ口を叩く普段からは想像も付かない。
孝介も、本当は優しい男なのだとようやく理解した。
「―お前‥指輪どうした?ヴィラに忘れたのか?」
私の左手の薬指を見て、孝介の声が少し慌てた。
私は首を横に振る。
「―眠りな。アパートについたら起こしてやる。すべて【悪い夢】だよ。
目が覚める頃にはすっかり解決してるって‥」
孝介が心から私を気遣ってくれているのが充分に通じたので、もう1つ訊きたかったことは尋ねそびれてしまった。
孝介が言う通り、私と爽介が話し合うべきことなのだ。
―次第に激しくなる雨音に意識をスライドさせる。
爽介は今、どうしているのだろう。
まだあの街にいるのか。
それともヴィラに帰るために車を走らせているところか。
「―本降りになってきたな。嵐が来そうだ……」
孝介の潜めた声が、ベッドの中の爽介の声を思わせて―
声を殺してそっと涙を流した。
*****
葵が物言いたげな瞳で真央と立ち尽くしていた。
何か言葉を掛けたいような気がしたけれど、言葉が見つからなかった。
葵の瞳をただじっと見つめる。
静かに車は動き出した。
「―みーちゃんが思っているようなことは、何もないんだ。
爽ちゃんが帰ってきたら話し合いな…」
孝介の穏やかな声を、遮るようにポツリポツリとフロントガラスに雨雫が落ちる。
いつの間にかあたりは薄暗くなっていた。
『―孝ちゃんが言ってた、爽介の隠し事って奥さんのこと…?
この前ふたりが言い争いしていたのはこれが原因…?』
孝介が息を飲む。
「――そうだよ‥だけど奥さんじゃない。
元奥さんだ。
離婚はとっくに成立してる…大丈夫。
お兄ちゃんが好きなのはみーちゃんだけだよ」
顔は前方を向いたまま、孝介の手のひらが私の髪を撫でた。
爽介と結婚することは赦さないと口にした時と同じ真剣さで、私を慰めてくれる。
今、わかった。
孝介がどんなに私を心配してくれていたか。
私が爽介の秘密を知った時のことを、どんなに恐れていたか。
憎まれ口を叩く普段からは想像も付かない。
孝介も、本当は優しい男なのだとようやく理解した。
「―お前‥指輪どうした?ヴィラに忘れたのか?」
私の左手の薬指を見て、孝介の声が少し慌てた。
私は首を横に振る。
「―眠りな。アパートについたら起こしてやる。すべて【悪い夢】だよ。
目が覚める頃にはすっかり解決してるって‥」
孝介が心から私を気遣ってくれているのが充分に通じたので、もう1つ訊きたかったことは尋ねそびれてしまった。
孝介が言う通り、私と爽介が話し合うべきことなのだ。
―次第に激しくなる雨音に意識をスライドさせる。
爽介は今、どうしているのだろう。
まだあの街にいるのか。
それともヴィラに帰るために車を走らせているところか。
「―本降りになってきたな。嵐が来そうだ……」
孝介の潜めた声が、ベッドの中の爽介の声を思わせて―
声を殺してそっと涙を流した。
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