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Re:again
第1章 【夢をみること】
*****
芸術に特化した高校を卒業後、隣県で就職した。
美大を目指す同級生の中、数少ない就職組の私。
田舎から逃れるためなら、何だって良かった。
別に生まれ故郷が嫌いだったわけじゃない。
この場所には何もないけれど、だからこそ見えるものもある。
空と海と山
田舎育ちな私は自然を目にすると癒される。
それでも故郷を離れたのはご近所づきあい、口さがないひとびとからの言葉、視線が耐えきれなかったせい。
地主だった祖母の死去後、我が家は瞬く間に傾いた。
三代続く女系一族。
曾祖母の代から我が家は男運がないらしい。
母や親類は、膨れ上がった祖母の借金をどうにか工面し、その時に尽力してくれた司法書士の男性と母は再婚した。
生まれ育った実家は売り払われ、更地にされ、今では駐車場になっている。
心が痛まないわけではない。
ただ、ひとつひとつをあらためるには私は膿み、疲れていた。
小太りのひとの良さそうな“新しいお父さん”に母を託し、私は故郷を出た。
故郷よりもはるかに都会に近い隣県での生活にそれなりに夢がなかったわけではない。
就職したアパレルShopでは女だらけの職場ということもあり嫌なこともあったが概ね楽しかったし、出会いもあった。
恋人ごっこを楽しんだり得体の知れないナンパ男を部屋に連れ込んで籠城することもあった。
セックスをする間は何も考えずにいられた。
だから余計なことを考えそうになった時は誰かの隣で眠った。
抱かれる瞬間は、スプーンから滑り落ちるゼリー。
手のひらで受け止めようとしてもすぐに地面に落下してしまう。
深い友達は作らない主義だけど、知り合いは多かった。
クラブ、バー、ライヴハウス。
出会いはどこにでも転がっていた。
皆が平等に知らない場所では
私の人見知りも幅をきかせることはなかった。
薄暗い室内では顔が良く判別出来ない。
彼、彼女たちは言うなれば“夜”そのものだった。
ひとりひとりが私の知り合いなのではなく、一塊で私の知り合いだった。
私は夜が好きだった。
相手の顔が見えず、おそらく相手にも私の顔が見えないその時間帯が。
芸術に特化した高校を卒業後、隣県で就職した。
美大を目指す同級生の中、数少ない就職組の私。
田舎から逃れるためなら、何だって良かった。
別に生まれ故郷が嫌いだったわけじゃない。
この場所には何もないけれど、だからこそ見えるものもある。
空と海と山
田舎育ちな私は自然を目にすると癒される。
それでも故郷を離れたのはご近所づきあい、口さがないひとびとからの言葉、視線が耐えきれなかったせい。
地主だった祖母の死去後、我が家は瞬く間に傾いた。
三代続く女系一族。
曾祖母の代から我が家は男運がないらしい。
母や親類は、膨れ上がった祖母の借金をどうにか工面し、その時に尽力してくれた司法書士の男性と母は再婚した。
生まれ育った実家は売り払われ、更地にされ、今では駐車場になっている。
心が痛まないわけではない。
ただ、ひとつひとつをあらためるには私は膿み、疲れていた。
小太りのひとの良さそうな“新しいお父さん”に母を託し、私は故郷を出た。
故郷よりもはるかに都会に近い隣県での生活にそれなりに夢がなかったわけではない。
就職したアパレルShopでは女だらけの職場ということもあり嫌なこともあったが概ね楽しかったし、出会いもあった。
恋人ごっこを楽しんだり得体の知れないナンパ男を部屋に連れ込んで籠城することもあった。
セックスをする間は何も考えずにいられた。
だから余計なことを考えそうになった時は誰かの隣で眠った。
抱かれる瞬間は、スプーンから滑り落ちるゼリー。
手のひらで受け止めようとしてもすぐに地面に落下してしまう。
深い友達は作らない主義だけど、知り合いは多かった。
クラブ、バー、ライヴハウス。
出会いはどこにでも転がっていた。
皆が平等に知らない場所では
私の人見知りも幅をきかせることはなかった。
薄暗い室内では顔が良く判別出来ない。
彼、彼女たちは言うなれば“夜”そのものだった。
ひとりひとりが私の知り合いなのではなく、一塊で私の知り合いだった。
私は夜が好きだった。
相手の顔が見えず、おそらく相手にも私の顔が見えないその時間帯が。