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Re:again
第8章 【紫陽花色の雨】
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6月。
梅雨入りはまだなのにぐずついた天気が続いている。
灰色がかった空、急に降りだした雨に心が乱される。
遠くの雷鳴に耳を澄ませながら、爽介から貰った箱を開く。
野の花をあしらった花輪のようなネックレス。
石は半貴石だけれど、デザインと石の個数から私のような貧乏人からすれば生半可な代物ではないことが伺い知れる。
あれから爽介とは会っていない。
孝介経由で私の連絡先を知ったそうだけど、連絡はきていない。
箱の内側に記されたブランドの綴りに目を走らせ、また箱を閉じた。
ドレッサーの奥にしまい込む。

室内に干した洗濯物を畳み、冷蔵庫の中を覗く。
牛乳を切らしていることに気付き、買い物に出掛けるか迷う。
葵はお風呂上がりに牛乳をジョッキで飲む。
牛乳がないとごねるのだ。
二十歳前だというのにまだまだ成長期だそうで、この前は身長が2cm伸びていたらしい。
身長が2mになる日もそう遠くない。

窓の外を暫く見つめ、買い物は諦めることにした。
せっかくの休日なのに葵の来訪があるのか、あれば泊まっていくのか‥そればかり朝から気を揉んでいる。
―今日もきっと、来ない。

自分に言い聞かせるとどこかでホッとして、そして心の中にぽっかりと大きな穴が空いていることに気づく。

ふいに引っ越そうかな、と思う。
誰も知らない場所でひっそりと暮らすことを胸に思い描く。
隣県から帰郷し、このボロアパートに移り住んだ時のように‥。
私はあの時、《彼》から逃れるために身を隠した。
では今、私は《何》から逃れようとしているのだろう?

窓を叩きつける雨音が激しくなる。

夕方だというのに早々に浴槽にお湯を溜め、入浴を済ませた。
そのまま布団に潜り込み、耳を塞いだ。

葵の不在を嘆きそうになる度に、新天地での暮らしに想いを馳せた。
新しい暮らしは《何か》から逃げ仰せることが出来るはずなのに、ちっとも魅力的には思えなかった。
耳鳴りばかりが酷くなる―

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