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「冗談じゃないわよ、一緒にしないで」
第1章 遊びと本気
ーージャジャーンッ♪
私の声とともに流れていた音楽が消える。
何とも渋い終わり方だろう、と考えた。が、多分私の歌い方のほうが渋いのは間違いない。
どうしても、この方の歌を歌うときは感情移入してしまう。
「相変わらず、最高」
「本気で褒めてくれてんの?」
「本当。白々しい顔して熱い程気持ち込めて歌うところが素敵だよ。
その気持ちはやっぱり“自分も本気で愛せる人がほしい!”って所から来るの?」
「そうそう、ってー・・。その言い草は、私がアバズレみたいやんか」
「アバズレとは言ってない。ただ、“男なんて興味ない”に度が過ぎるって意味よ」
「興味はあるよ」
「極端な方向性でね」
「ふふっ」と思わず噴出してしまう。
由香は本当にユーモア溢れる人だ。
「それもそうかもしれへんわ」
と焼酎に口をつけたとき、右肩をポンポンと叩かれた。
軽く驚きながら振り向くとそこにはさっき、マイクを持ってきてくれた男性が立っている。
「すみません、良かったら貰ってくれませんか?」
「あら、ありがとうございます。
でも私は名刺持ってないんですよ」
「構いません。ー・・それより、胸に響く歌詞ですね」
「えぇ。たかじんさんは私の中のベストシンガーなんです」
「それはその筈だ。じゃないとあんなに力強く歌えない。」
と笑ったときに見えた歯は、白く輝いていた。
名刺を財布に直す際に、さりげなく名前を見る。
“小野田隼人”
「隼人・・さん?」
「はい。」
何てツイてない日なんだろう。隼人との関係を終わらした、その日に別の隼人さんと知り合った。
ナンパは何度かされたことがあったが、ここまで精神的に何か突きつけられた様な感じがしたのは今日がはじめてだった。
「あの、お名前は?」
「あぁ、すみません。申し遅れました。菊乃小百合です。」
「源氏名みたいな名前ですね」
「皆さん、よう言わはるんです」
「お兄さんは、おいくつですか?」と横からイキナリ、隼人さんに質問する由香。
「僕は32歳です」
「私と11歳差ですね」
「21歳ですか!?」
「はは、吃驚したはる?」