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「冗談じゃないわよ、一緒にしないで」
第1章 遊びと本気
ーー・・・はぁ・・はぁ。
あんなに全速力で重い荷物を持って23階も往復したのはいつぶりだろう?というより、前代未聞かもしれない。基本運動不足で成り立っている私が、ここまで全力で運動をするのは。
肩で息をしながら、家のドアをゆっくりと開ける。
私の目に真っ先に映りこんできたのは、革張りの靴が綺麗に並べられてある風景だ。
やっぱり、車に乗せた時も、はじめて話しかけたときもそうだが、所々から蓮君が普通の家庭で普通の躾ー・・いわゆる“育ちが良い”のが目に見えて分かるときがある。
「おかえり・・・って汗だくじゃね?」
「うん。」
私も蓮君を見習い、普段なら一人暮らしだし気にしないが、靴を綺麗に並べて心配してくれている彼には申し訳ないけど存在を気にもとめず、冷蔵庫向かって一目散に早歩きで歩く。
冷蔵庫の扉をあけると、冷気が顔にまともに当たるが、汗をかいた後や夏場の仕事帰りなどのこの瞬間は本当に一瞬の至福のひと時であり、思わず開けっ放しにしたくなる位だ。--・・が、麦茶を取り出し、お揃いのグラスに注ぐ。
このグラスには、私の頭文字のSと
隼人の頭文字のHが彫られてある。二つ隣に並べるとイルカがキスをしている絵図になる。
どこぞのメルヘンカップルだ、と突っ込みたくもなるが
良くも悪くも、少し子どもっぽくて割り切れない性格なのが隼人の特徴だ。
「ありがとう、いただきまーす」
「はいどうぞ。」
グラスを片手に、ソファーにドカっと座り込む。
その際に、汗でぬれた首元から、今朝つけて出て行った香水の香りが仄かに鼻覚を刺激した。
「いい部屋住んでるんだね」
「うん。それなりにね」
「テレビ付けていい?」
「いいけど、何もしてないんじゃない?この時間帯なんて。」
「してるよ、柳沢を特集してるスポーツ番組、今日のこの時間だった気がする」
(まじでどうでもいい)
なんて思ってしまったがそんな事は勿論、口が裂けてもいえない。
「私お風呂溜めてくる。服のサイズは?」
「メンズでMだよ。」
「ビンゴ。上下セットのジャージあるから、それ着て。
下着も多分新品のがあったと思う。」
「そうなの?」
という蓮君の視線は私達のマグカップだ。