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「冗談じゃないわよ、一緒にしないで」
第11章 魔法の検査薬
寒い風に顔が当たるのが嫌だから、私はマフラーを巻き直して、紫音を抱き抱えた。
スーツケースとベビーカーと私の鞄を持つのは光の仕事。こういう所の優しさは認めてあげたい。
いかにも老舗旅館!という見た目。
建物自体は何度か改造されていて、古いとか汚いとは感じない。でも、オーラが他の旅館とは全然違う。
光は私に値段の事を何も言ってこない。
毎月の光熱費の事も、紫音にかかるおかねも。
私が、この人と結婚して自分のお金を使ったのは紫音と二人で出掛けた時に使うコンビニのお菓子代くらいだろう。
しかもそれも片手でおさまる位の回数。
今回もそう。
この人の事だから、貸しきり露天風呂が付いてる部屋にしてそうだしー・・絶対、値が張るわよ。これ。
「「いらっしゃいませ~」」
行き届いた教育が感じられる。綺麗な着物を着た女性がスタスタとこちらに近付いてきた。女将さん・・?
「柳沢さんですね。」
「はい。」
「一応、私と副支配人しかこの事は知りませんので・・ご飯の手配などすべて私がさせて頂きます。女将の南野ともうします」
「南野さん・・よろしくお願いします。」
軽く差し出された右手を、嬉しそうに握る女将さん。とても凛としていて、美しい。年齢はー・・五十代半ばかな?
「お部屋は一番上の階になります。あ、お荷物お持ちいたしますよ」
「いや、大丈夫ですよ。この位、持てるんで」
「ですが・・」
「本当に。大丈夫。
これもトレーニングの一環ですよ」
「うふふ。ありがとうございます。」
よく、店員さんや他人に冷たい人はお嫁さんに冷たい男性になるって言うじゃない?でも、それって本当に当たってるの?って言いたくなるときがある。
この人は、店員さん達にすごく優しいし行儀が良いけど、私には冷たい。
"最近、お腹痛いし、熱あるの"
って何気なく言った一ヶ月前もー・・彼は特に私を気にする事なく、ポカリを投げつけてきただけだ。
紫音のうんちが固かったときは、これでもか!という位インターネットで調べ倒して挙げ句の果てには「病院行った方がよくない?」と相談してきたのにー・・。
一応、私たちは家族なのに。
何なのだろう、この壁はーー・・。