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「冗談じゃないわよ、一緒にしないで」
第1章 遊びと本気
「あ、わりぃ」
「ん?」
「金、貸してくんねぇ?」
私がトイレに行っている間に着替えたのだろう隼人は、薄い青色をした細いジーンズに黒色のブイネックを着ていた。
服着替えての第一声がそれかよ、と思ったけどもうここまで来たら呆れ半分だ。
「いくら?」
「2万円かな。」
「はい。」
綺麗に整理されてある鞄から茶色の男物の財布を取り出し、彼の手に希望通りの金額を置く。
「使い道は?」
「返りのガソリン代とー、ホテル代」
確実に多い。
隼人の車は普通の軽自動車だ。しかも、このホテルもそんなに高級な所ではない。ガソリンを満タンに入れても二万円は多い。そんなの喘ぎまくった後で意識が朦朧としていても可笑しくないはずの私でも分かる事。
差額は、彼の飲み代になるんだろう。
「わかった。」
「本当わりぃ、俺自身、女から金借りるとかいやなんだけどさ」
心底思ってなさそうな顔ぶりで、そう軽々という彼だが、確かにいつもは何から何まで払ってくれている。
そう思ったら二万円なんて、安いモノだろう。
だけど私が怒りを覚えたのはそこではない。
少し見えた彼の高級ブランドの財布の中には確実に紙幣が10枚以上入っていた。
それが千円札であれ、一万円札であれ、私からお金を借りなくても充分やっていけるだろう。それなのにお金を借りる、その“いやらしさ”
そこが気に食わない理由だった。
「別にいいよ、気にせーへんから」
と心の中とは正反対な綺麗事を言ってからもう一度煙草に火を付けお金を払っている隼人を後に、靴を履いて部屋の外に出る。
「さぁ、ちょっと待って」
「帰りは一人でいいよ。」
「送ってくよ」
「いけるよ、ありがとう。でも仕事やから」
「あ、そうなのー・・。次あった時、金返すから」
「いいよ、あげる」
「はぁ?」
予想もしていなかったであろう言葉に、開いた口がふさがらないという感じだった。私が実際にお金を払った事がないから“余裕がない子”だと思っていたのか。
と考えながら、今日はじめて本当に思っている事を言う。
「隼人に“次”は無い」
ヒラヒラと手を振りながら一足先にエレベーターに乗り込み、パーキングエリアへと足を速めた。