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「冗談じゃないわよ、一緒にしないで」
第1章 遊びと本気
深緑色をしたセダンに乗り込み、エンジンをつける。
ナビが作動したと同時に車内に流れ出す音楽は、京都が大好きな私ならではのセレクトだ。
関西弁の歌が非常に多い。今風のアイドルたちの歌なんて一曲も入ってなかった。
それはそうと・・・。左ハンドルの車は時に面倒くさいなぁと思うこともある。
今がまさに、そう。
丁度、隣の車の運転席に座っている若い男の人と目が合った。
私の様な若い女が、この車に乗っているから珍しいのか。もしくは、女性が足を組み煙草を吸っている姿にビックリしたのかどっちかは分からない。
でもー・・。そういう好奇の目は昔から大嫌いだった。
「あんたに関係ないやろ。
ほんまに、どいつもこいつも。あたしの事を何や思うとるんよ」
そう呟き、勿体ないと思いながらまだ長い煙草を灰皿に押し付けた。と、同時に携帯電話が鳴り響く。
「はい。」
「もしもし?今日の店ってもう予約したの?」
学生時代からの友人の由香は私より少し早く、この土地に来て今ではすっかり方言が抜けている。どこか冷たく聞こえるのが標準語の唯一の弱みなのか。
「まだしてへんよ」
「なら、よかった。そのビルの道路挟んで手前にさ、ラウンジがあるのよ」
「ラウンジ?」
「うん。友達の知り合いがオープンしたみたいなんだけど元々料理は得意で、腕は結構自信あるみたいなの。予算も大体、さっき話してた店と変わらないし変更しない?」
「了解。あ、でも私車やわ」
「大丈夫、代行手配すればいいだけの話」
「ふふっ、じゃあそこに向かうわね。名前は?」
「一蘭」
「オッケー」
お互い、最初から最後まで素っ気無いやり取りだが、ここまで付き合いしていれば気にならない。もう10年近くの友達だ。今更喋り方とか言い回しの1つで喧嘩するほど子どもでもなければ、そんな無駄な体力も無い。
久しぶりに由香に会える楽しみで私の怒りのバロメーターは一気に下がり、そそくさと車を“一蘭”へ走らせた。