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第2章 無知な思考

涙を拭う女を見て、男はぽんぽんと頭を優しく撫でた。


「今日はまりちゃんのお母さんの命日だったね
　お墓参りにでも行こうか」


男の言葉に女は驚きの表情を隠せなかった。

女を気遣う様な、優しい言葉。


「え、お兄ちゃん…？
　急に、どうしたの…？」

「ん？ほら、まりちゃんも
　お母さんに逢いたいでしょ？

　だからさ、
　逢わせてあげる」


女は男の言葉が信じられなかった。
何か、裏がある。と、しか、想えなかった。


「ほら、お腹空いただろ？
　これ、食べておけ

　今日は父さんも休みなんだ
　みんなでお母さんのとこに行こう」


その言葉に女は更に不安げな表情を浮かべる。
嫌な予感しかしない。


そんな女を見て、男は口元に笑みを浮かべた。
そして、女の頭を優しく撫でた後、ゆっくり、部屋を後にした。

女は深刻な面もちで、胸元に手を置いたまま、ちゃぶ台に置かれた、パンとコーヒーを見つめた。


男が持って来たそれ。
何かない訳ではないだろうけど、食さない訳にはいかない。

きっと、何か企みがあるはず。
だが、女は母の墓参りに本当に行けるかもしれない。と、言う想いの方が強かった。


男には従うしかない。
用意されたそれを口にいれた。