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絹倉家の隷嬢
第1章 邂逅
(2)
修一は夜の森を友人達と駆け抜けていた。
時々こうして家を抜け出し、闇夜の森の中で鬼ごっこをするのが彼らの楽しみの一つになっていた。昼間とは違い、お互いの姿は簡単には見えない。家を黙って出てきているという多少の罪悪感と相まって、その緊張感と興奮がみなを虜にしていた。
もっとも、修一の父は毎晩遅くまで仕事をしているので、修一の方が早く家に戻ることになる。弟たちに口止めだけしておけばそれで済んだ。
修一たちはみな詰襟の学生服姿である。着物より動きやすいし、彼らにとって洋服といえばこれしかなかった。
東京の初夏の夜は冷える事もなくなり、遊び回るにはちょうどいい気候だった。
森の闇を駆け抜けている時、修一の目にあるものが飛び込んできた。
たまたま森の外の方を見た時だ。
ちょうど、絹倉家の洋館が木々の間から見える場所だった。
二階の角部屋――以前例の『催し』があった部屋が――
紅く灯っている。
修一は立ち止まって目をこらした。
間違いなく、あの部屋だ。
突然、修一の頭に三年前に覗き見た光景がはっきりとよみがえってきた。
全身がゾクゾクし、修一は小さくブルッと震えた。
そして今来た反対側に向かって、森を駆け抜けた。友人たちのことなど頭から消え失せ、何も考えず、体は勝手に動いていた。
修一は、勃起していた。
※ ※ ※
修一は自宅に引き返して持ってきた鈎付きの縄を伝って、絹倉邸の壁を登っていた。
育ち盛りの年頃なので、三年前に比べて修一の体は大きくなっていた。あっけないくらい軽々と一階と二階の間の庇に足を掛けるところまで来てしまった。
しかし、あっさり登ることはできても、華族の屋敷を覗くという緊張感は変わらない。修一の心臓は、その音が周囲に大きな音で流れてしまっているのではないか、と思える強さで鼓動していた。
修一は、三年ぶりにそっと頭を上げ、窓から透かし模様のカアテン越しに、薄明かりの部屋の中を覗いた。
相変わらずおぼろげではっきりとは様子が見えないが、床に四つん這いになってこちらに尻を向けている女に、男が後ろから股間を押し付け、腰を前後させているのが分かった。男の後ろ姿は以前同様、青年のような体つきだ。