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第10章 依頼人　高橋　美樹

「なぜそう思う？」

「勘だよ」

男は矢崎から目を逸らさなかった。

「一つ聞いていいか？」

「答えられればな」

矢崎は表情を引き締めた。

「なぜ綾瀬瑠璃が保護されている？」

「それには答えられん」

「おれが知っている限り彼女は上司と不倫してただけだ」

「そうか。それを知っているのか」

男はニヤリと笑った。

「妻からの危害か？」

「まあ、それもある」

「それも？」

矢崎は眉間に皺を寄せた。

「それも。」

男は取り立てて表情を変えない。

「ほかに何が？」

男は胸ポケットから煙草を出した。

「あんたは瑠璃の何を知ってる？」

「何も。
　ただ、ここ最近の彼女の様子が少し気になっただけだ」

男はゆっくりと煙を吐いた。

「そうか。

　まあ、それ以上気にするな。
　ただ不倫が泥沼化しちまっただけだよ。

　落ち着くまで保護しているだけだ」

男は言葉とは裏腹な威圧感のある目で矢崎を見た。

「関わらないでくれ」

そういって男は矢崎の横をすり抜けマンションへと入っていった。