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甘い香
第1章 プロローグ


「はっ…んぁ、やめっ…!」


ネオンが輝き眠ることを知らない夜の街。
そんな輝きも届かない、ビルの谷間から漏れる息遣い。

ガッチリと固定された腕は逃げようとする腰を掴み、もう片方の腕は顔を固定する。


(何で俺、堂嶋先生とキスしてるんだっけ…?)


歯列を割り、口腔内をくまなく愛撫する舌は逃げる舌を絡めとる。

俺、前園 朋佳は初めて味わうディープキスに頭が真っ白になっていた。


「なぁ、いつからソコで働いてた?」


キスの相手、堂嶋 薫は甘く耳元で囁く。その声に背筋がゾクリと震えた。

先生は相手が俺だと気付いていない。
何故なら俺は今、女装しているからだ。

理由は先生が今言った言葉に答えがある。


「代理で、たまに出ているだけだから…もう戻らないと…」


女装の理由は、叔母が経営しているBar『MOON』の深刻な人手不足が原因だ。

女顔の俺は女装したら9割は男だと気付かれることはない。それを利用してたまに叔母の店を手伝っていた。


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