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くちなし
第3章 闇
私が女になった日から数日後。
両親から聞かされた黒田が去った事実。

「どうして?!止めなかったの?!」
「雅…。黒田君が望んだことだ。やりたいことがあるとな。黒田君には、本当にお前の世話をしてもらった。家族のような存在だったろう。そんな大切に思っていた人が言うことを無理に止めたくない。彼の芽をむしり取ってしまうほど私も悪人ではない。」
お父様は変わらず優しい口調で正論を言う。私は、何も言い返せない。

「黒田の代わりを早々に見つけるわ!だから…」
「お母様!!!黒田の代わりなんて…。変わりなんているはずないじゃない!!」
そう言うと、私は部屋を飛び出して行った。
私は、温室へ向かう。

黒田が私の為に植えたくちなしを見に足が勝手に動く。

「……黒田…っ!!」
涙が止まらない。
綺麗咲き誇ったくちなしを見る。

「綺麗ですよ。」
黒田が私にかけた言葉を思い出す。
もう、黒田はそばにいない。
私が捧げた身体もこの心も無になってしまったようだ。
こんなにも、好きだったことを伝えたい。

「雅。いいかい?入るよ。」
こういうタイミングでやってくるのは兄だけだ。
私が不安定な時にそばで優しく声を掛けてくれる。

「お兄様…。黒田が…っ!!」
「あぁ。聞いたよ。お父様からね。いきなりの話で、雅も驚いただろう?可哀想に…。」
私の手を握り頭を撫でる。その優しい掌に悲しみはより一層増す。
「うっ…っ!」
「たくさん泣きなさい。僕がそばについてるから。」
兄の優しさも心にしみる。
二時間程温室にいただろう。
「気分は少し良くなったかな?僕に出来ることがあったら言うんだよ?」
「……ありがとうございます…。」
「彼が残したくちなしの花を絶やさないようにしなければね。僕も嫌なことがあったらここにくるんだよ。雅と一緒だね。」
「お兄様も…?」
「ああ。そうだよ。心にね、闇のようなものに真っ黒にされてまいそうになる…。苦しいんだ。
 けれど、真っ白なくちなしの花を見ると浄化されていくような気がしてね…。こんなこと雅に言ったって仕方ないのにね…。ごめんよ。」
兄の悲しみに染まる表情。

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