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くちなし
第1章 始
自分の部屋に戻ってくる。
「なにか温かい飲み物でも、お持ちいたしましょうか?」
「そうね。ありがとう。」
「かしこまりました。」

そう言うと部屋からでて行ってしまう。
もう少しだけ黒田と一緒に居たかったな…。

ーコンコンー

「失礼致します。」
紅茶を持ってきてくれたことが香りでわかった。
「黒田。いい香りね。」
「ささ。冷めないうちにどおぞ。」
「ありがと…。」
身体があったかくなっていくのがわかる。
きっと、心も満たされていっているのだ。
「いかがですか?」
「おいしい!さすが黒田ね!」
こんな、黒田との何気ない会話が好きだ。

「……お嬢様…。大変申し上げにくいのですが…
 先ほどの、くちなしの花をお部屋に持ってきていませんか?」
「え?いいえ。どうして?」
「ここのお部屋は、くちなしの匂いがいたしますので…。」
私自身は気づかなかった。
「持ってきていただいても、よろしいのですが…。
 旦那様と、奥様に見つからないようにお願い致しますね。」
ばつが悪そうな顔をする黒田。
「どうして?」
「お嬢様のように、女の子がいるご家庭には、嫌われる場合もございますので…。いいえ!お嬢様を疑うなど…
 私としたことが、申し訳ございませんでした。」
黒田は、普段このようなことを言うことはない。
私を、疑ったことに漬け込み、何か意地悪をしてやりたくたった。いつも冷静でいる黒田を壊してみたいと思った。
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