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くちなし
第4章 迷
「雅?朝だよ。…起きないと…。」
「んー??」

身体の上に重みを感じて目が覚める。
悠が私に覆い被さっていた。

「きゃっ?!」
「クスクス…可愛い顔して寝てたね?」
「もう…っ!」
恥ずかしくなり顔を背ける。
「雅ー?」

結局、昨日は悠と身体を重ねお互いの存在を確認しあった。

「雅…それって…首筋舐めてくれってこと?」
「な!違う…!…ん!」

ーちゅっー

「クスクス…可愛いなぁ…。本当に…誰にも渡したくない…な…?」
「冗談言わないでよ!」
「クスクス…屋敷では、お兄様って呼ぶんだよ?」

私達は出口のない道のりを歩いて行くのだろうか?
不安しかない。私と悠は別の方へ歩んで行かなければならないのに。
迷路に迷い込んだみたいだった。

「さぁ…。そろそろ戻ろうか?」
「…ええ。お兄様。」
「笑ってしまうね…。雅大好きだよ。」


ホテルを後にすると、兄は私と違う方向へ歩いて行く。

「…お兄様?」
「あぁ…僕は、寄るところがあるからね。先に屋敷帰っててくれるかい?それじゃあ…。」

どこへ行くの?なんてそんな野暮なことは聞けなかった。
弱い女だ。
兄を知っているから?
わからない。
こんなにも苦しい。
どうして、男の人はこうも女を苦しめるの?

「……バカ。」
そう、少しでも信じた私が馬鹿。
寂しさと虚しさを感じた。
きっと私は、繰り返していくのだろう。
寂しさを身体で埋めて、更に虚無感に襲われる。
とぼとぼと独りで帰る道のりは、とても長く感じた。
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