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くちなし
第4章 迷
「きゃはは!やだー昴!」

はっきりと後ろの方から女の子の黄色い声が聞こえた。
そして、昴と呼んだ。
気づいた時には振りかえっていたのだ。私は思いっきり目が合ってしまった。
 
「…っ!」

女の子が腕を絡め、周りの目など気にしていない様子だ。
私は、思いっきり目をそらした。

「あっれー?雅ちゃんじゃなーいー?」
あぁ。捕まってしまった。
「ねぇ?!昴!誰?この女。」
あからさまに嫌な顔をする。
「昴くんじゃないですか。彼女と一緒なんですね。
 すっごくお似合いですよ!私なんかより、彼女大切にしてあげて下さいね!では…」
「お似合いだってー!きゃはは!嬉しー!!」
私は、走り去ろうと思った。

ーパシっ!ー

「ちょっとー。連れないなぁー。ねぇ、これから雅ちゃんと用事思い出したから!また今度遊ぼー!
 んじゃーねぇー!」
この状況をどう理解していいか、わからなかった。
ひらひらと手を振る昴と、ただ呆然と立ち昴の方を見る女の子が見えた。
雅は、無理やり昴に連れられ歩いて行く。

「ちょっと!離して!」
「やーだ。」
「んもう!離してよ!」

ーパシ!ー

「また打つの?」
「あ…。ごめんなさい…。」
「けど…お礼したい気分だよ?僕はね。あの子と遊びたくなかったから…助かったよ。ありがとう。」
心なしか、昴の元気がないように見えた。

「昴くん…もしかして、元気ないの?」
「え…?……ちょっとー何ぃ?」
驚いた顔をした。
「顔色悪いよ?肩貸そうか?」
「大丈夫。少しそこのベンチに座れば治るから…雅ちゃん…側にいてよ…。」
いつも元気いっぱいで、強引な昴くんがぐったりしている。
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