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くちなし
第6章 偶
「黒田…。」

「クスクス。驚いていらっしゃいますね。
 無理もありません。私が勝手ながら、使用人を辞めてしまいましたので…色々と、ご不自由かけてしまい、申し訳ありませんでした。」

「っ…。」

「…もう、会わないと思っていました。しかし、こんな形で再開できた。うれしゅうございます。…まだ…再開するには…少し早すぎました…。」

「黒田に会いたかったの!お願い…少しだけ、会える時間が欲しいの…。」

優しく微笑むが、目は笑っていない。

「お嬢様…。私は、会いたくありませんでした。」

バッサリと切られる言葉。
冷たさしか感じられない。

「え…。」

「嬉しい…だが…まだ早すぎた。私の気持ちを知ってか、知らずか…。お嬢様…私たちは、交わってはいけなかった。
 距離を縮め過ぎた。もう、取り返しはつかない。」

「黒田…どうして…。」 
涙が出る。黒田の口から悲しい言葉しか聞けず、私の心はズタズタになっていく。

「黒田ではなく花巻です。花巻が本名ですよ。お嬢様、出て行ってもらえますか?…仕事の邪魔です。」

もし、今出て行ってしまったら…二度と会えない。

「…いや。会う約束をしてくれないと、出て行きません!」

「………。今日の夜九時に大和というお店に来て下さい。花巻で予約をしておきます。そこで、話しましょう。」

「大和…。わかりました!行きます。」

花巻の表情からは何一つ読み取れない。
何を考えているのかもわからない。
少し、怖くなった。

アルバイトが終わったら、すぐに支度をして出かけると決めたのだった。
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