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くちなし
第7章 嘘
車を走らせ、数時間後。
ある別荘地へと着いた。
静かで、海も見えるこの高台は、風が通り気持ちがいい。

「さぁ。着いたよ。少し長旅で疲れただろう?
 中へ入ろうか。」


ーキイ…ー

懐かしい香りがした。幼い頃よくここへ家族で来ていた頃。

「静かだね…。」

全ての時間が止まっているかのようだった。

「少しゆっくりしたらいいよ。
 お父様たちに電話してくるね。」

私は、ソファーに腰掛け目をつむった。
幸せだったあの時。まだ黒田のことを好きかどうかもわからなかった頃へ戻りたい。口に出してしまえば、もう取り返しがつかない。
淡い恋心を抱き、それが叶うことはなかった。

「はぁ…。」

「クスクス…ため息かい?何か飲み物でも煎れようか?」

「ううん。大丈夫。少しこのままで…。」

ーギシッー

「雅。ゆっくりとお休み。ここには僕ら二人しかいない。
 一日中寝てても何も文句は言われないし、お父様たちも理解してくれたよ。だから、安心して休んでくれ。」

二人しかいない…その言葉が私の胸をドキっとさせた。
悠の体温と香りを感じながら、瞼がおちていった。

「……おやすみ。」
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