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くちなし
第9章 昴
昴がまだ高校生の頃。

「やっほー!昴くん!昨日も夜遊びしてたの?」

話かけてきたのは、隣の席の同級生の明里。

「んー。遊んでない。」

無愛想に答える。

「感じわるーい。もっと愛想よくすればモテるのに!せっかくイケメンなんだから!」

「ウザ…。」

いつも隣同士の席で話すのはそんな話ばかりだった。

明里は、いつ明るくて男女問わず人気があって成績も優秀。
そんな彼女のことを周りはみんな大好きだった。

ある日の夜、彼女の後ろ姿を見つけた。
困っているように見えて、気が付いた時には、声をかけていた。

「おい。どーしたんだよ?」

「……昴くん。お財布落としちゃったみたいで…。
 電車乗れなくて…。」

いつもの元気な姿ではなかった。

「はー?貸してやる。つーかこんな時間に一人かよ。
 危ないから、送ってく。」

二人は、駅に向かい歩き始めた。
学校であんなに話しているのに、二人っきりになると何を話していいかわからない。沈黙が続いた。

「昴くん、エッチしたことある?」

「はっ?!」

顔を真っ赤にして聞いてくる彼女の表情は本気だった。

「ご、ごめん!こんなこと誰にも聞けなくて…。
 昴くんなら、知ってるかなって…。」

「そんなこと聞いてどーすんだよ。」

冷静を装い聞いてみる。

「義理のお父さんなの。お母さんが夜勤で居ないとき…
 私……。」

もう答えはわかった。

「言うな。それ以上…。」

「ごめんなさ…い……。汚いよね。軽蔑するでしょ…。
 けど…私もお義父さんが…好きなの…。」

「好き…か。いいんじゃねーの?ばれんなよ。
 絶対。」

「え…?理解してくれるの…?」

驚いた顔をする明里。

「理解は出来ない。けど……血はつながってないし。
 バレない自信があるならって一意見。
 けど、代償はデカいぞ。きっと…。」

「うん…。そうだよね。……昴くん家に来ない?」

それは、急な誘いだった。
もちろん断る。父親の顔はみれないと思ったからだ。
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