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目が覚めたら。
第3章 変態王子様は×××でした。
その王子様を独占して、あたしは記憶の場所を追いながら、ただひたすら12年に進化した現実に感嘆せずにはいられなかった。
あたしが通学に使っていた私鉄も、終点駅では地下に潜っていたり、よく行っていたデパートが廃ビルになっていたり。よく見ていたファッション雑誌が廃刊になっていたり。
驚いたのは電子機器。どこまでも薄くコンパクトな画面がディスプレイに並び、おまけに無線だとかいうもので繋がれていたり、画面に触れれば変わるパソコンとか電話。
「……ナツも、その"スマホ"なの?」
「うん。しーちゃんの携帯、機種変してお揃いにしようね。僕が手取り足取り教えてあげるから」
「スマホには足も使うの?」
「場合によっては」
正式名称"スマートフォン"。だが略せば、なぜか"スマホ"。よくわからない謎の機械の潜在能力は高いらしい。
そんなこんなで、なかなかに良い気分を味わっていたあたしだったが、唯一不快だったのは味覚の変化だ。
あれだけ甘いものが好きだったのに、ケーキを食べても甘さを感じないのだ。他の味覚は大丈夫だが、甘味だけが抜け落ちている。
「しーちゃんの体質、変化しているのかもね……」
ナツが哀れんだ目をしながら、あたしのケーキをばくばく食べた。
どうして彼は、こんなに無制限で甘味をとって腹筋が割れるのだろう。
ナツの生態が不思議で仕方が無い。
どうしても甘さが欲しくて、一流ホテルの地下に拡がるスイーツバイキングに参加した。50種類もあるスイーツなら、ひとつくらいはおいしいと思えるのではいか。
だが、だめだった。
「しーちゃん、ファイト!!」
……だからどうして、お前は人の分も食べられる。
ナツが口にするスイーツは、20個では効かない。
そんな時だった。
ひと口、それを口にしたあたしの体に、どくんと熱いものが走ったのは。
「!?」
慌てて口を押さえて、フォークで切ったばかりのケーキを見る。
「どうしたの? それ、シェリー酒のパイだけど……酔っちゃった? 顔、赤いけど……」
ナツが体を伸ばして、あたしの頬に触れた時、またどくんと熱いものが流れ、そして思わず声が出てしまったのだ。
「……ぁ、んっ……」
驚いたのはあたしだけではない。
ナツもだった。