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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
◇◇◇
太陽の光が眩しくて、あたしは瞼を開けた。
目覚めたあたしの隣に、ハル兄の姿はなかった。
ハル兄と眠ったのは夢だったのかと一瞬惑ったが、ハル兄のモノトーン調の部屋の中で、かなり乱れたシワシワのシーツの上にいる全裸のあたしと、ベッドの傍に下着まできちんと畳まれて置かれてあるあたしの服を見ると、その記憶は間違いなく現実のものであるのだろう。
「ハル兄……結構几帳面な性格……?」
脱がされたとはいえ、どんな顔で畳んでいたのだろうか。
女のあたしがぐうすか寝ていてそれに気づかずにいることに恥ずかしい心地になりながら、服を着た。
机の上には、昨日あたしがマグカップに淹れた珈琲が空になっている。
きちんと飲んでくれたらしい。
空のカップを持って、部屋から出たあたし。
「……ん?」
あたしに宛がわれたドアの前で異質な影を見つけ、思わず足をとめて目を凝らした。
それは――。
「え?」
立て看板だった。
『これより佐伯兄弟にて重要会議を行ふにあたり、立ち入りを厳しく禁ずる。それを破りし者は切腹を申しつけ早漏』
達筆な筆文字……これは多分、ハル兄の字だ。
あたしのパパは書道の師範代の腕前を持っていた。
あたしより先に生まれていたハル兄に、"今の時代は男が筆を持つ時代だ"と、我が子のように教え込んでいたらしい。
――ふふふ、パパ嬉しそうね。ハルちゃんの筆下ろし。
……なにやら誤解を招く言い方をしていたママだったが、生まれたあたしが女の子だったから、あたしはママが得意なピアノを習わせられたらしい。
――その人間の中身は字に出るからな。字は大切だぞ?
素人目でも、この長尺の半紙に書かれた文字は、相当な腕前。
達筆な鬼畜帝王。
サバンナ育ちの彼の中身は、文字同様に素晴らしいのか謎だ。
ハル兄の中で、どれだけ習字を長く続けられる魅力があったのかも謎だ。