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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
「おばさんは……ナツだけを推しているわけじゃないんですね」
「基本は奈都よ。やっぱり、静流ちゃんに嫁ぐんだって一生懸命花嫁修業をしていた健気でいじらしい息子の努力を買いたいじゃない?」
花嫁修業ね……。
それはあたしと、いまだ詳細不明な"縁"が深いらしいナツだから許されること。だから誰も止めようともしていないのだろう。
だがもしもの話。
――おかえりシズ。ごはんにするか? お風呂にするか? それとも、俺?
エプロン姿のハル兄が、花嫁修行を経て素晴らしき良妻になどなったら、あたしは多分また眠りに入る。
きっとこれは悪夢だと思い、正しい世界へ繋がる夢を彷徨う。
やはり嫁でも違和感ないのは、ナツの個性ゆえだろう。
ナツ、恐るべし。
「だけど波瑠だって可愛い息子。ふてぶてしいし、わかりにくいけど、家長の責任感は強い。もしもあの子がすべての"約束"を撤回し、リスク承知に動く決心をしたというのなら、それだけ離したくないものを見つけたあの子を応援したい。
いい加減、36歳独身を返上して安心させて欲しいし。36歳が19歳に張り合うのもどうかとは思うけど。
だけどまぁ、静流ちゃんが娘になるのなら、波瑠奈都どちらでもいいわ」
娘にと所望下さるおばさま。
多分おばさんは、身寄りのなくなったあたしに、家族を作ろうとしているのだろう。
誰よりも温かい家族、それが佐伯家だと思えばこそに。
その心遣いはすごくありがたい。
だけど、彼らにも"運命"の相手はいるのではないかと思う自分を消せない。たとえあたしとナツがそれっぽく周囲に思われていても、その根拠がなにかわからない上、あたしは12年前にもナツに運命は感じていない。
運命ってなに?
――頭はよくないことも色々考えすぎるけれど……体というものは正直なのよ。心にね。
体でならわかるのだろうか。
今のあたしに見えない、"心の絆"というものを。
「私がこんな話をしたことは、ふたりには内緒ね。彼らはそういう援軍求めていないから。波瑠の潔くも不器用すぎる男気に、奈都も感化されているし」
「まあ、実の兄弟ですからね。血は争えないというか」
おばさんからは返事がなかった。
ふたりの息子を淫魔に推す彼女は今、なにを思っているのだろうか――。