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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
疑問符ばかり飛ばしてポスターに釘付けになっていたあたしの背中に、店内から出てきたばかりの客の肩がぶつかった。
ぷうんと鼻に漂うきつい香水の匂い。
謝罪ひとつなく出て行く横暴なその人物の後ろ姿は、ハル兄の白衣らしきものを翻した、華奢な肩幅の長い髪をひとつに束ねた女。
白衣に赤いハイヒールで、カツカツ行くか……。
もしも女医であったのなら、絶対かかりたくないタイプだ。
そう言えばハル兄、東大病院の外来医としてどんな仕事をしているんだろう。まさか咥えタバコでふんぞり返って、"そんなもの気合いで治せ"とか患者に怒鳴ってないだろうな……。
好みの女患者が来たら、即座に診察台に寝させて服をひん剥いて、長々と色々な部位の触診をしていないだろうな……。
特殊病棟の契約が解除になっても、契約上外来医としての勤務を願われているのなら、それなりにいい医者だろうと信じよう……。
そんなことを思いながら、誰もいないレジの向こう側で、後ろ向きの店員さんに声をかけた。
「すみません、"あなたの心に萌え萌えラブまんずぅ"5つ下さいっ!」
言葉にするのは恥ずかしいが、言わねば買えまい。
そう意気込みすぎて……噛んだ。
どうしてあたしは噛んでしまうのだろう。
"まんずぅ"……どこぞの田舎っぺだよ。
そう泣きたい心地を抑えて、何でもなかったよう言い切った。
店員がこちらを向いた。
化粧をした、すごく大人びた面長美人顔の店員だった。
同じ黒髪であれば、彼女のように立て巻きしてみれば、少しはあたしの童顔も大人っぽく見えるかな……。
乙女ゴコロを誘う店員は、そんなに歳は食ってはいないはずだ。
「あ、先ほどのお客様で"萌えまん"は売り切れました」
あの白衣ハイヒール女に買い占められたというよりも、こんなにこっぱずかしい名前を長々と言ったのに対して、ラブまんではなく、"萌えまん"の4文字で返されたことにショックを受けるあたし。
それで通るなら、そういう商品名にしてくれよ!
そしたら噛まなかったよ!
結局どんなものなんだよ、"あなたの心に萌え萌えラブまんじゅう"は!
そう涙目になった時だった。
「あっ!!」
その店員に指をさされて大声を出されたのは。