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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
ハル兄のバイクに久しぶりに乗った。
今だからわかる、このバイクはきっと総長時代からのハル兄の大切なものなんだろう。昔と変わらずピカピカに磨き上げられている。
黒を基調に赤色の模様を散らした、見るからに改造バイクだけれど、そこそこ高級感があるように思える。
最初で最後、記憶にある一度きりのバイク同乗は小学生の時以来だから、実年齢に換算すれば実に20年ぶりだ。
そうあれは……学校から帰宅途中の通学路。
小学生が野次馬して膨れあがっていたのが気になったあたしは、背伸びしてなにがあるのかと見てみた。
小学生が湧いていたのは、まさしくこのバイク(の格好よさ)と、その前にハル兄と立つ……見るからにヤンキーっぽい金髪のセーラー服女が派手に泣いていたからだ。
――どうして乗せてくれないの!? 私には乗る権利あるわよね!?
――だから!! 本当に物覚えが悪い女だな。俺のバイクには、特別な女しか乗せねぇんだよ!! お前は権利なんかねぇんだよ!!
――だったら、彼女は乗れるじゃない。
小学生のあたしは思ったものだ。
特別=彼女の図式を当然とばかりに強固に主張する女には、彼女=暇つぶしの遊び相手とみなすハル兄が、乗せたがらない理由は永遠にわからないだろうと。
しかもハル兄が、正式なカレカノとしてちゃんとお付き合いしていると自認しているかどうかも怪しい。
ああきっと、こりゃあずっと平行線の会話の末に、ハル兄がバチンとされてこのふたりの関係も終わるな。
いつものように冷静に判断したあたしは、完全に人ごとだから肩を竦めて場から離れようとした。
あたしは家に帰ったらピアノ教室に行かねばならない。こんな見慣れた場面をわざわざ見物して、遅刻するわけにはいかない。
家に戻るのが面倒だが、遅刻した方が、極度の神経質先生のヒステリーの餌食となって、それ以上に面倒になる。
嫌味ぐだぐだの稽古時間が大幅に超過したり、隣でわざとらしいため息をつかれながら、ずっと貧乏揺すりをされ続けたりした方が、もっと厄介で精神に悪い。
それなのに――。