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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
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「どうも~」
どこかの売れない漫才師のように、陽気な挨拶で医務室のドアを開けたあたしは、引き攣った笑みの影、ガタガタと震えながら……とんだ巻き添えを食らった哀れクソメガネの腕をひっしと掴んでいる。
医務室には、冷気を放出する王子様がこちらを向いて仁王立ち。
笑う余裕すらなく、いつものナツらしからぬ怖い顔だ。
やばい、これは……委員長に邪魔され続けてキレた時の空気と同じ。
他は誰もいない。
すべてのベッドは空いている。
医務室には、ナツしかいなかった。
ナツはあたしの挨拶ににこりとするどころかまともに返事をせず、愛想笑いをしているあたしの横をすり抜けると、がちゃりと内から鍵をかけた。
……隔離空間から、逃す気がないらしい。
これは相当おかんむり……?
だけど。
「なんで勝手にいなくなった」
だけどさ。
あたしは、腕組みをしつつ絶対零度の眼差しを寄越すナツを見据えた。
「別にあたしいなくてもいいじゃない」
あたしの手を離したのはナツなんだから。
ナツはあたしの言葉に、訝しげに目を細めた。
……怖っ。
ナツの存在が怖っ!!
懸命にクソメガネの腕を掴んでいると、ナツが無言でその手を引きはがした。
それはまるで、以前見ていたナツの嫉妬のよう。
今は……嫉妬されるいわれもないのに。
「そういうことしてると、本命に誤解されるよ?
ナツ。本命には誠実に行こうよ」
「だったら……」
ナツの面差しはさらに冷え込んだが、ナツはひとつ深呼吸をして言った。
「僕は本命ではないから、そうやって波瑠兄だけではなく、サクラへも手を出して平気だというわけ?」
口調が少し戻っただけ、ナツの理性はかろうじて残り、マジギレ一歩手前で思いとどまっているのだろう。
ナツの理性に感謝しながら、あたしは思わずクソメガネを見てしまった。
あろうことか、ナツはあたしとクソメガネの仲を疑っているらしい。
よりによって、クソメガネ。
ナツの大親友のクソメガネ。
顔を合わせば口喧嘩ばかりの、この犬猿の仲たるあたし達を、どう見れば甘ったるい関係に思えるのか。