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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 そう背を向けた途端、がたんと不穏な音がして。

 振り返ればナツが、湯を入れようとしたのか浴槽に身を乗り出すような格好で動かない。


「ナツ、ちょっとしっかり、ナツ!!」

「しーちゃん、会いたい……」


 意識はかろうじてあるが、最早今の彼は錯乱人形だ。

 火事場のなんとやらで、とりあえずナツをソファに運ぼうと、後ろからナツの肩を羽交い締めするようにして、ずるずるとナツを引き摺った。


「会いたいよ……」


 哀切な声音が響き渡る。


 どうしてこの子は……。



「しーちゃん、好き……。好きで、好きでたまらない……」



 こんな時にでも、あたしを想ってくれるのだろう。

 女なんて星の数ほどいるのに、選べる立場にいる男なのに。



「しーちゃん……行かないで……」



 昔から、ナツのあたしを求めるこの声を、あたしは無視出来ない。

 ナツがどんな姿であれ、引きつけられる。吸い寄せられる。


「僕、頑張るから……。だから僕を、見ていて……。僕を……愛して……。好きなんだよ、昔から。ずっと……好きなんだ……」


 ソファに横たわったナツ。

 やつれた頬に、一筋の涙が伝い落ちた。



「好きなんだ……」



 綺麗な綺麗な眠り姫。



「静流――……」



 苦しくなるほどに、ナツの想いがあたしの心を熱くさせ、あたしの目からも涙が零れ落ちた。



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