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可愛いヒモの育て方。
第5章 熱

 麻人はそこで押し黙る。
 視線を少しだけ下げて、口を開いた。

「家、誰もいないんですよ」
「え?」

 意外な言葉に、私は箸を止めて麻人を見る。

「誰も?」
「はい。父親は単身赴任で月に何回か帰ってくる程度ですし、姉はもう結婚してるので」
「あれ、お姉さんて確か私と同い年だったよね? 結婚してるんだ!」
「はい。もう子供もいますよ。……友梨香さんも早くしないと、往き遅れますよ?」
「一言余分なんだよあんたはっ」

 麻人が声を上げて笑う。
 そう突っ込んでから、私はもう一人の存在を思い出した。

「お母さんは? 家にいないの?」
「母親は……一応いますけど、仕事が不規則なのもあってあまり時間が合わないです」
「へー、そうなんだ」

 麻人の声のトーンが、心なしか下がったように感じるのは気のせいだろうか。
 ふいに、麻人が箸を置いた。

「もう食べないの?」

 麻人の茶碗には、ご飯が三分の一ほど残っていた。おかずもまだ少し皿に乗ったままだ。

「残すなんて珍しいね。もしかして、どっか体調悪いん?」

 決して大食漢なわけではないけれど、普段より、明らかに食べる量が少ない。
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