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その、透明な鎖を
第8章 認めたく、なかったのに
――彼女のその笑顔が、瞬時に固まった。
「……え?」
そのまま、その言葉だけが。
笑顔を形作っている唇のままで、漏れて。
それ以上、何も言葉にできない彼女を見ながら。
――ああ。
やっぱり、そうなんだ。
そう、彼は確信して。
何かしらの感情が沸き上がるだろうと思っていたのに、なぜか静かなままの自分の頭と心を不思議に思いながらも、言葉を続けた。
「……俺、聞いたんだ。やってる最中の声」
「え……」
「夏休みが始まる少し前かな。土曜日、バイト帰りに寄ったんだ、ここに」
彼女は、ただ黙って彼を見つめて。
彼の話す言葉を聞いている。
その表情は、今まで彼が見たことのないようなそれだった。