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その、透明な鎖を
第10章  私が失ったもの


パパは、かなり衰弱していた。
眠れない、食事もとれない、そんな状態だったから当然と言えば当然だった。
それが原因で倒れたらしく、病室のベッドの上で目を覚ましたパパは、千津ちゃんにものすごく怒られていた。

『凛ちゃんにこんなに心配かけてどうするの!?』
『桜ちゃんが亡くなってつらいのは自分だけだと思わないで!』

……そんなふうに。
パパの精神状態を考えて、それまでずっと優しくパパに接していた千津ちゃんが見せたその感情は、パパも私も驚いたぐらいのそれだった。


けれど、そうして、やっと。
パパが私を見た。
ママが亡くなってから、初めてちゃんと見てくれた。
それまでの生気のない目でじゃなくて、しっかりと私を。


『……凛』

『ごめんな、凛』


その手が、パパの横たわるベッドの脇で、椅子に座っていた私へと伸ばされて。
一気にこみ上げてきた涙に、思わず俯いた私の髪へとそれが触れた。


『ごめん』


と、そのまま頭を優しく撫でるパパのその手。


――私はたまらず号泣して。


ずっと。
ずっと怖かった。

ママのところに、パパも行ってしまいそうな。
そんな、なんだか危ういものを私はパパからずっと感じていたから――――。


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