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その、透明な鎖を
第3章 いいこと
「どうぞ」
凛がドアを開ける。
中に入ると、そこは必要最低限な家具しか置かれていないシンプルな部屋で。
「引っ越してきてまだ数か月だから、物もあんまりないの」
「そうなんだ……」
凛はこっちに来てまだ間もないんだ、と悠斗はその言葉で知って。
「走ったから暑いよね。
飲み物持ってくるけどアイスコーヒーでいい?」
「あ、うん。サンキュ」
「適当に座っててね」
凛が、そう言って部屋から出る。
悠斗は、その部屋を少し見回し。
そしてその香りに気づく。
「……あ」
なんだか甘いそれは。
いつも凛から香っているものだった。
「凛の、匂い」
それに気づいた悠斗の胸は、少しだけ高鳴って。
いま、自分がいるのは彼女の部屋なんだと――あらためて、思って。