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その、透明な鎖を
第5章 夏が始まる
「凛」
彼は彼女を前にすると、もう抱き締めずにはいられなくて。
目の前にいる彼女の腕を、手を伸ばして掴んでそのまま引き寄せて。
自分の身体で抱き留めて。
ぎゅうっ、と。
「はあ……」
凛の、甘くていい香りがして。
彼は思いっきりそれを吸い込み、自分の中に満たす。
「夏休み、始まったね」
彼女の呟きに、黙って頷いて。
「いっぱい、一緒に過ごそうね」
また、頷いて。
それから少し、身体を離した。
そして、手に持った買い物袋を揺らす。
「昼、買ってきた。一緒に食お」
今度は凛が、頷いて笑う。
「……行こ」
そのまま彼女は彼の腕をとって歩き出そうとして、彼の手に繋ぎ直される。
少し汗ばんだその手のひらは、夏の暑さのせいなのか。
それとも――――。
「……なんか、緊張する」
小さく呟く彼に、彼女はきゅっ……と、その手を強く握って。
「ん」
それだけを、返した。
――無言のまま、ふたりは手を繋いで歩く。
向かうのは、彼女の家、だった。