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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 そのため、おしまは二階の部屋で仕立物の内職を身体に負担のかからない程度にしていた。店が忙しい時分、龍之助と松之助は大抵、二階でおしまが面倒を見てくれている。
 それでも、お民が花ふくに来るまでは、おしまが店の仕事を手伝っていた。が、寄る年波に持病が悪化し、どうしても無理がきかなくなったため、新しく仲居を雇い入れることにしたのである。
 お民が螢ヶ池村で暮らしていた間、店の仕事は、おしまの妹のおしかが手伝いに来ていた。おしかは小さな煙草屋に嫁いでおり、亭主は既に亡くなっている。現在は長男夫婦や孫と暮らしていて、悠々自適の隠居暮らしであった。
 鳴戸屋の内儀おえんは、おしまの得意の一人で、しばしば仕立物の注文をくれる。そのおえんが昨日、仕立物を受け取りにきたついでに、庭から伐ったばかりだという金木犀を持ってきたのである。
 春の沈丁花と並び、秋を象徴する強い香りを持つ花だ。うっとりとさせる香りで、人を魅了するにも拘わらず、花そのものは素朴で、どこか初々しい少女を彷彿とさせる。
 ほの暗い部屋の一角に、ひっそりと浮かび上がる黄金色の花。その花をお民も源治もただ黙って見つめていた。
 夜明けの光が窓に填った障子濃しに差し込んでいる。お民はともすれば溢れそうになる涙をこらえながら、次第に明るさを増してくる朝の光に眼を細めた。
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