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私達が人間を辞めた日
第9章 宛先のない届け物
「むかつく!!あの糞親父っ!!」
ガタン!!!テーブルにジョッキを叩きつける。
「あの...お客様...他のお客様への御迷惑になりますので...」
「あー...ごめんごめん。生御代わりね」
「...かしこまりました」
私に注意しに来た居酒屋の店員を軽くあしらう。今日は悪い酒になっているようだ。
その原因は仕事関係の悩み...ジャーナリストの私が追っている事件の取材許可がどうして降りないのだ。
それは「連続失踪事件」。女性ばかりが失踪するという明らかにおかしい事件にもかかわらず、上司達は頑なに調べようとはしない。それどころか、報道機関や警察すらこの件に関して消極的だ。
その不甲斐なさに嫌気が差したのか、私が個人的に取材した被害者の家族もなかなか私を信頼してはくれない。勿論、失踪した娘を心配している様子はやつれた表情から伺えるのだが、家族すら手掛かりが皆無な為...実際に私に言える事はほとんどないようだ。
本格的に調査したいので上司に取材の許可を貰いに行ったが、そんな時上司の態度はだいたい同じ。
私が「まだ若い」とか、「女だから」とかいうような見下した態度を遠回しに見せる...
私の必死さはどうすれば伝わるのだろう...最初は興味本意で無かったと言えば嘘になるが、今は他人事じゃない。
...私の幼なじみも二人...随分長く行方不明になっている...
「お待たせしました~生ですね」
再びテーブルに置かれたジョッキ。
「...やっぱりむかつく...」
今度は小さな声で呟き...一気に飲み干した。