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私達が人間を辞めた日
第9章 宛先のない届け物
「うー...気持ち悪い...」
呑み過ぎた私はふらふらと夜道を歩く。ここ周辺は田舎の為、タクシーを拾うのも苦労するだろう。人気の無い道...時刻は深夜三時になろうとしている。
「...ん?」
ふと、薄暗い工場にトラックが入って行くのが目に入った。
もしかして...怪しい取引とか?そんなはずないか...
しかしここで酔いが覚め始め、無意識に小走りでその場所に向かってしまうのはジャーナリストの性なのだろうか。
私はこそこそと工場の門から顔を覗かせる。トラックは工場のそばに停車し、中から作業服の男が二人下りると工場に向かっている。
私はゆっくりと忍び足でトラックに近付いた。トラックには運送会社等の名前も記入されていない。
もしかして本当に...あっ!?
男二人が荷台を押して戻って来るのが見え、物陰に隠れる。男達は荷台に積んだ大量の段ボールを次々とトラックに積み込み、再び工場へ向かう。
私はそれに合わせてトラックに走ると、トラックの後ろ側...開かれた扉から積まれた段ボールの隙間に指を入れた。
ガムテープを剥がさないように隙間を広げ、中を覗く...中に入っていた物は...
「...なんだ...ただのパンじゃない...」
肩をガックリと落とす。別にコンビニへの出荷等でこんな時間にパンを運ぶ事に何の不思議も無い。
さっさと帰ろう...あれ?
トラック内部の隅...何かが落ちている。私は無意識に拾い上げた。その時、荷台を押す音が聞こえ慌てて物陰に隠れると、男達は再び大量の段ボールを積み込みトラックを走らせた。
「やば...持ってきちゃった...」
右手を開くと掌に乗った指輪...なにか...見覚えがある...
意味不明な胸騒ぎに急かされ...内側を覗くと【S・NOZOMI】と記されていた。
「まさか...希望(ノゾミ)の...なの?」
それは現在、私の幼なじみである涼と共に失踪中の...私の大事な友人の指輪...