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喘ぐなら、彼の腕の中で
第10章 一発KO


「……っ」


春風が舞って、莉央の髪が揺れる。

胸が締め付けられて、何も言葉にできないでいると
莉央は静かに続けた。


「お前、まだあの女になりたいって思うか?」

「……!」


“ 私亜美になりたい。
どうしたら亜美になれる? ”


先週の金曜日、あなたが黙って傍にいてくれた時
泣き叫んだ私の、心からの悲鳴。

だけど、今は…


「……なりたくない」


莉央を見つめて、震える声を絞り出した。

……こんなにも突然、自分の願いって変わるものかな。

それに

心の変化は、きっとそれだけじゃない。


「聞くまでもねーか。
けど、安心した」


どうしよう。

胸がいっぱいで、キュンとして苦しいよ。

一度泣くと人は涙もろくなるのかな。


だって

今まで見たことのない、優しい表情で

莉央が私に微笑んでくれている。



「恨みのひとつも言わずに、芹澤の立場を尊重して
辛い気持ちを抑えながらも、笑顔で彼女に接する」

「……!」

「間違いなく
今世界で1番優しくて、かっこいい女だな」


「……っ」


「沙月、誇りを持てよ。
自分らしさを失うな。

お前は、お前しかいないんだから」




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