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吼える月
第6章 変幻
・‥…━━━★゚+
悍しい赤い月夜は、まだ更けない。
悪夢の玄武殿から遠ざかるように走れども、凶々しい真紅色の光はついて回り、逃れられない。
それが不吉な運命にも思えるサクは、遠い目をしてただ月を見上げるユウナの視界を奪うように、脱いだ上着を被せた。
「……小雨が降ってきましたね。それでなくとも夜風は体を悪くさせます。一番近くの揺籃に向かって保護を求めるまで、どうか眠っていて下さい」
すりとサクの胸に、柔らかな頬が当てられた感触がする。
その感触だけで、愛おしいと……サクの顔が愛おしげに緩む。
……壁から外に出て以来、ユウナはひと言も口をきかなかった。
シュウを犠牲にしたことを悔い思い悩んでいるのだろうと、サクは推測した。
誰からも愛される温室育ちの姫は、武官の忠誠心がいかに強いものかを、その肌身で感じたことはないはずだ。……今まで平和であったがゆえに。
生半可な覚悟ではないのだ。
武官がその命を捧げるという思いは。
……それは自分も同じ事。
官人になるために誓った忠誠は、ユウナとユウナを愛する者を護ること。
ユウナが愛するリュカは、死んでしまった……。
ユウナが愛する父の祠官も、死んでしまった……。
だからサクの忠誠は、ユウナにしか向けられない。
それは7日、命尽きるまで――。