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吼える月
第6章 変幻
「この男を捕まえ、あの穢れた女を殺せっ!!」
大勢の近衛兵が詰めかけ、殺気だった目で刀を構えてくる。
「サク……?」
ユウナが目を開いて不安そうに聞いてきた。
サクはユウナに笑った。
「なんでもありませんよ、姫様。ちょっとしたトラブルです。ちょっと居心地悪いかも知れませんが、我慢していて下さいね!!」
「え?」
サクは、ユウナを肩に担ぎ上げた。
そして――。
「姫様に指一本触れさせねぇぇぇぇぇっ!!」
一触即発。
それが合図だった。
ユウナの頭を片手で抑えながら、首に突きつけられた刀を、ユウナごとその場で素早く屈んで躱すと、足払いをして兵士を転倒させ、その隙に奪った刀で鮮やかに他の兵士達を打ち負かした。
倭陵が誇る鋼の鎧は、サクの前ではなきに等しく。
刀が触れただけなのに鎧越しに伝わる衝撃が凄まじくて地面に尻をつき、また、鎧に覆われていない部分は動かす腱を切られる。
凶々しい夜に、白銀の乙女を庇うようにしなやかに動くサクは、近衛兵の目には……鬼神の狂喜乱舞のようにも見えて、恐れおののいた。
同じ人間とは思えない、狂気じみた迫力に怯み上がった。
「お前らにやられる俺じゃねぇっ!!」
木に繋がれていた馬に飛び乗り、手綱を引いて走り去るサクを見ながら、隊長格の厳めしい顔つきの男が叫んだ。
「黒陵国に待機している全近衛兵に知らせよ。
サク=シェンウが"光輝く者"を連れて逃走、見つけ次第殺せと!!」
やがて――。
多くの馬が駆ける音がした。