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吼える月
第6章 変幻
  



 激しくなる雨脚。

 騒がしい人の気配と馬の嘶き。


 味方になるはずの者達の協力は得られず、逆に安全な場所へと逃れるための行く手を阻む存在となりえたのは、運命の皮肉としか言いようがない。


「……ちっ、流石は中央ご自慢の騎馬隊。瞬く間に、俺達はお尋ね者か」


 早馬にて飛散した近衛兵の伝達は思った以上に早く、黒崙に至る要所要所に近衛兵達が殺気めいた警戒をしていた。

 その近衛兵達の武装に、変化を感じたサクは目を細めた。

 近衛兵が一部ではなく……全身を包んでいる鎧や刀が、赤い月が隠れた昏い環境でも、仄白く発光していたからだ。

 さらには、光輝く……巨大すぎる大砲の姿も見えた。


「……まさかあれ、"輝硬(きこう)石"製か!?」


 対人相手ならサクの馬術や武力で突破出来るが、近衛兵達の武具が"輝硬石"であれば、話は別だ。

 武器での斬撃は勿論、掌打を始めとした肉体での体術ですら、全身防備された近衛兵を打ち負かすことは出来ないだろう。



 "輝硬石"――。
 
 それは衝撃はおろか、熱や風などという自然の力をものともしないとされる。倭陵で僅かしか取れない希少石のことである。

 鉛や鋼と比較にならぬほどの硬質であり、研ぎ澄まして単体での使用は無論、大量の火薬の衝撃にも耐えれるために、大砲など銃器に応用すればかなりの破壊力がある武器を作り出すことも出来る、幻の素材とされている。


 だがそのあまりの硬さに加工も難しいということで、粗石を精錬して武器にするにはまだ何十年もかかると言われていたはずだ。

 それが、実は既に実験的にでも使用可能な状態になっていたことは、恐らくハンとて知らなかったことだろう。


 ハンは常々言っていた。


――元々ひとつの国として協力し合うのが筋なのに、中央の近衛兵は選び抜かれた者だという上から目線の、情報隠匿主義なのが気に入らねぇ。選び抜かれたんなら、一度でも俺に勝ってみろってんだ。


――サクが武神将になった時代には、中央が開発している"輝硬石"での武具が黒陵の警備兵にも配給されてるといいがな。現在どの程度の開発段階かすら、祠官にもまるで伝わってこねぇ。
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