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吼える月
第28章 企図
「それでサクちゃんがね……」
――イタチ寝入りよりよっぽど悪質な"にょろ"寝入り。守るべき民の命を与えても、海底でずっと眠りこけていて、国の危機にも起きやしねぇ。ぐうたらな巨大な"にょろにょろ"、逆鱗だかの影響が薄れてもう目覚めてもいいんだから、その笛で叩き起こせねぇか?
――サクちゃん……。ユエの笛でポカポカ叩いても起きないよ……。
――わかってるよ、んなことは!! イタチにがつんと来たような、青龍が飛び起きるような音色の笛を吹けという話!
――どんな音色?
――知るかよ、とにかく人間には無害で青龍だけが反応するような、そんな音を吹け。さあ、早く。吹かなかったら"約束"は反故にするぞ。お前の頼みなんて聞いてやらねぇからな!
「……ユウナちゃん…。ユエ頑張ったの……」
「サクったら横暴ね。よしよし、よく頑張ったわね」
ユウナの膝に倒れ込むようにして、ユエはさめざめと泣く。
「ユエちゃんが、こんなに協力してくれるのは、サクとの約束があるからなのね。それってどんなものなの?」
「すべてが終わったら教えて上げる。言うと、なんだか実現が薄れそうで。終わったら、ユウナちゃんにもお願いする!」
ユエはきりりと顔を引き締める。
「だからユエ、頑張る!」
こんな小さな子供でも、願いを忘れていない。
そして、すべてを無くしながら進んできた自分達にも、小さな子供の夢を叶えられる力があるということは、とても嬉しいものだった。
自分達の存在は虚無ではない。希望があるのだと。
「それでユエが頑張って吹いたら、青龍の反応があって…」
「たとえば?」
「海がもぞっと動いたの」
「青龍は海にいるの!?」
「う……ん、そう言って良いのか悪いのか…。とにかくね、青龍は起き上がろうとしても起き上がれないほど、まだ疲れ切っているみたいで……」