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吼える月
第28章 企図
この幼女は、なんでそんなことがわかるのだろう。
――いいか、姫さん。踊りと同じく音楽……笛も、達人の域となりゃ、音色を対象にぶつけるだけで、それがどんな形をしてどんな状態なのか、目を瞑っていてもわかるらしい。大変なのは、鎮魂舞だけじゃねぇんだ。リュカだって、姫さんに付き合うのに頑張っているんだぞ?
ハンの言葉が思い出された。
だとしたら、目に見えない青龍の状態がわかるというのなら、ユエはどれだけの笛の担い手だというのか。
こんな小さいのに、どれだけ頑張ってきたのだろうか。
「今青龍はきっともそもそと動き始めている。その動きは、きっとサクちゃんなら感じられている。そしてサクちゃんは――」
ユエが言葉を切ったのは、"異常"を感知したからだった。
「きゃああああ、ユエちゃん! また景色がぐにゃぐにゃ始めたわ!」
「なんで奇門遁甲の陣が、勝手に解けるの?! この陣は出口に行き着くか、あるいは術者が自分で解かない限りは……」
新たな景色に現れたのは――
「そう、僕が陣を解いたんだ」
リュカ。
銀色の長い髪を潮風に靡かせて、憂いを含んだその顔に笑みを作る。
「僕から逃れられるとでも?」
そしてリュカは、幼女の手の中にある紙の人形を見ると、掌を向けてそれをちりぢりに消し去った。
「僕が直接来た方が、効率的だと思ってね」
その瞳には、冷たいものしか感じられない。
"なんで術を解いたの"
"効率的ってなに?"
"サクはどうしたの?"
尋ねたいことは山ほどあったが、もの凄い早さで現れる大量の餓鬼を背にして、リュカは威圧的にユウナを見た。
「ユマは棄てられた。
陛下がお望みなのは……ユウナ、お前だ」
無感情のままに、足を踏み出すリュカを見て、ユウナは恐怖に怯えたような顔をして、じり…と退いた。