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吼える月
第29章 変現
「どうすればいいと思う、イタ公ちゃん……」
ユウナは膝の上に、でろりと伸びて眠り込んだままのイタチに声をかけた。ふさふさの毛並みは健在で、触ると気持ちがいい。ちゃんと命が通った"温もり"を感じるのに、起き出す気配はなかった。
ポカポカさせても、冷たい布で身体を拭いても、くったりとしたまま眠り続けるイタチ。
"開き"にしていれば開きのまま。横に転がせば転がったまま、ぴくりともせず一向に目覚めない。惰眠を貪っている…・・以上のほぼ昏睡状態だ。
イタチに気持ちのいい夜風を与えれば、心地よく目覚めて貰えるのではないかと、皆がいる庭から離れて風通しのいい廊の端に座っているのだが、やはりイタチは覚める気配はなかった。
「はぁ……イタ公ちゃんも、お疲れよねぇ……」
ユウナは色々と思い返す。
亀から姿を変え、二本足で歩いたりするのは、"そういうものだ"と、もう慣れた。
心の中で会話出来るのも、自分が玄武の力を宿したサクと儀式をしたからだと、納得した。
だが、イタチは見る見る間に進化してしまったのだ。
人間の言葉を喋り出すわ、サクみたいな力を出すわ……。
イタチを超越してしまって、なにに向かっていくのか。
「……まさか、本当に玄武になっちゃったり……」
イタチが玄武。
玄武がイタチ。
「ぷぷっ。駄目だわ、笑っちゃう。こんな可愛いイタチが黒陵の神獣なんて……駄目だわ、おかしすぎてたまらない!」
イタチが聞いていれば怒り出しそうだが、厳めしい大きな亀の風貌としてユウナに伝わっている玄武の姿は、弱々しくさらにはふさふさで見ているだけで気持ちよさそうな小動物姿とは、かけ離れている。
ユウナはひとしきり笑うと、目尻の涙を指で拭き取りながら、高く上り始めた赤い月を眺めた。