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吼える月
第29章 変現
この月の色は、あの夜から始まった――。
最初は毒々しくて気持ち悪かったのに、連夜この月の色を見ていたら、最初からこの色が本当の月の色のような錯覚を起こしてしまう。
どんな禍々しさも、時間が解決するというのだろうか。
戦いの後、リュカはどうしたのだろう。
ゲイが消えた後、サクが浮島まで探しに行ったが、リュカは見つからなかったという。死体も出ていないらしいから、生延びてはいるだろう。
どうしてもリュカの行方が気になってしまうのだ。父親を殺され、淫らなことをさせられ、そしてまた再会したら犯されそうになっても。
住民ごと浮島を爆破しようとした残忍な者を、昔のように心配してしまう自分の甘さが嘆かわしいと思いながら。
だが、こうも思う。
リュカが死んでしまったのなら、自分にかけられている穢禍術というものは消えるはずだと。
もし本当に、リュカが呪詛をかけ直していたのだとしたら、サクに気持ちを伝えられる。サクがまた命を張って、自分にかけられた呪詛の効果を薄めないといけないこともない――。
「………。いけないわ、こんな考え方……。まだ呪詛もかけ直されているのかもわからないのに……」
憎みたいのに憎みきれないリュカ。
不可解なものとして記憶に残ったのは、突然髪を切ったことだ。
なぜ、あの時あの場で、自分を殺さずに、髪を切らねばならなかったのか。
――それが……"代償"だ!
そしてリュカがかけた穢禍術は、なにの代償だというのか。
「まさか、髪を切ること……のはずはないわよね」
リュカが愚鈍な男ならまだしも、頭の切れる男なのだ。
その男の考えを、ユウナは推し量ることは出来なかった。
昔も今も。