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吼える月
第6章 変幻
相手が神でも魔でも――。
心を奪われた瞬間というのは、サクには馴染みがある。
一瞬、世界が止まり……そして胸の中の喪失感を味わう……。
そして一気に――。
その胸の空いた穴に灼熱の塊が詰め込まれ、今まで入っていたものと似て非なるものが息づくのだ。どくどくとうるさい脈動を伴って。
息苦しいけれど、甘美な瞬間。
全身で生きていると実感出来る、幸福に満ちた瞬間。
そうやって、今まで何度もユウナに恋をしてきた。
何度もユウナだけに魅入られてきた。
そして今――。
禁忌の色にて彼を煽る彼女に、またもや何度目かの恋をした彼は……、同時に……ちりちりと焦げだしそうな燻った痛みをも感じた。
……それは恋とはまた別に、何度も味わってきた"嫉妬"だった。
どこまでもリュカと溶け合うような繋がりを持つその色は、完全に黒に染まるサクの色を排除しているようで。
必要ないと押し出されてしまっているかのようで。
色だけでもユウナを独占出来ないサクの目は、煩悶に細められた。
リュカの色に染まりたいというユウナの心の顕れを見ているようで、胸が痛んでたまらない。
ユウナを忘れないといけないのに、また火をつけられて。
暴れる心を抑えようと天井を仰ぎ見ていたサクは、その間……ユウナがその長い髪を手で掬うようにして、驚いた目でそれを見つめ始めていたのに気づいていなかった。
そして――。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
突如ユウナは発狂したように悲鳴を上げた。
「なんで、なんで、あたしの髪が!!」