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吼える月
第6章 変幻
祠官がサラと結婚したハンに、黒崙に家を与えたのは……黒崙が疾病によく効くと言われる天然の湯が湧き出るからであった。
黒陵のために祠官のために、戦い疲れるハンへの祠官のねぎらいと、ハンがすべての女遊びをやめるほど耽溺した、若々しく美しい妻への祝儀として。
美容効果も高いとされるこの湯は、夫妻にうってつけだった。
贅沢なほど湯がいつでも湧いている広い岩風呂。
この風呂が好きで昔はユウナもよく家に遊びにきていた。
それはリュカも同じく。
背中の烙印を見せられるサクとユウナと共に、よく体を流し合って岩風呂でばしゃばしゃ泳いで遊んでいたものだった。
その足が途絶えたのは、ユウナが急に女らしくなり始めた時で、女心に疎いサクに代わって、それを察したリュカが笑った。
――僕達は、いつまでも子供じゃないからね。心も体も……。
そう、あの頃の俺達とは変わってしまったんだ……。
遣り切れない思いをもとあましながら、サクはユウナを洗い場に降ろした。さすがにユウナを全裸にするわけにはいかない。
そう、あの頃とは違うのだから。
「姫様、自分で服を脱いで下さい。粗末な服ですが、代わりを用意させますんで。姫様、ほらしゃんとして下さい。懐かしの俺の家の風呂ですよ。姫様、好きだったでしょう? 思いきりばしゃばしゃしていいですからね?」
しかしユウナは反応がない。
目は開いているものの、澱んだような虚ろな目で遠くを見ている。
「姫様、まずは俺の服だけでも取りましょう。姫様?」
反応がないため、サクは仕方が無く自分の服だけでも剥ぎ取った。
ユウナの髪が拡がった。
浴室の橙色の照明においても、見事な銀髪。
今までのユウナの美貌を損なうことなく、それ以上の妖しい艶めかしさを引き立てようとする……魅惑の銀に、サクは微かに乱れた息をした。
心を奪う、魔性の色――。
魔に魅入られる人間の心境を、体感した気がした。