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吼える月
第29章 変現
  
「……サクは、遠征から帰っても鍛錬が終わっても、そんなお酒飲むひとじゃなかったでしょう? 飲んでいても、注がれたから飲む…程度で」

「……まあ」

「だけどさっきは、自分からすごく飲んでたわよね? ……それでもその程度のほろ酔いですむのは凄いけれど……」

「………」


「なんか心境の変化?」


 言いたがらないサク。

 それがユウナにあることを思わせた。

 サクが酒を浴びるように飲んでいたのは、ユマのことを思ってではないだろうか。自分の身代わりに堕落させられたという……そのユマの姿を、サクは見ているのだから。

  
 今思っているのは後悔なのか、それとも愛情なのか。
 
 ユマのこと以外、サクが酒に走る要因はないように思えたのだ。


 サクは、ユマに傾いているのだろうか。

 今、自分を抱きしめながら、ユマを思っているのだろうか…。

 そう思うと、胸の奥を突かれたように苦しくなった。


「……ユマのこと?」


 焦れたユウナが、絞り出すようにして口にした言葉に、ユウナを抱きしめるサクの腕が強まった。


「……違います」


 嘘をつかれたと思うユウナは、悲しみに沈む。


「嘘よ。ユマのことを心配しているんでしょう?」

「心配はしています。あいつは俺の妹分ですから」


 そしてさらにぎゅうとサクはユウナを抱きしめる。


「あんな姿になっても、尚……あいつのことを妹以外に思えない自分が嫌になります」

「………」

「どんなに姫様に似ていても、どんなに俺のためにあんな姿になってしまっても、俺にはどうすることも出来ない。俺は……姫様が好きなんです。それだけはなにがあっても変わらねぇ……だからこそ」


 ユウナは心の中でユマに謝る。

 それでも自分を選んでくれたことに、心を躍らせていることに。
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