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吼える月
第29章 変現
 

「姫様は俺のもんじゃねぇ。だからそういうことを言える立場にはいねぇとわかっていても、言わずにはいられなくなっちまう。そして酒に逃げても結局、こんな風に、姫様を困らせてしまう」


「あたしは……っ」


 ユウナが慌てて振り向くと、サクは憂いを帯びた眼差しを向けていた。


「……気にしないふりをしていても、やはり気になるんです。なんで姫様の服がはだけていたのか。なぜリュカが裸だったのか。

……どこまで、触らせたのか。どこまで……リュカに奪われたのか」


 サクの声が苛立ったようなものになっていく。


「違うわ! あたしとリュカはなにも……」


 サクの顔が、苦しみに翳った。


「なにもなくて……ふたりで服を脱ぐんですか?」


 隠そうとされたことが、"なにか"あったのではないかと邪推してしまう。


「それは……っ、そのリュカに……されそうになったけど、されてないわ」

「未遂であっても……、姫様……落ち着いてますよね?」


 サクの翳りが、沈痛な表情となってユウナの瞳を揺らせる。


「そりゃあなにもなかった……」

「ちゃんとありますか、ここに」


 サクの人差し指が、ユウナの胸の一点を指した。

 その位置は、心臓。



「奪われたんじゃないですか、リュカに」

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