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吼える月
第29章 変現
 

 サクは……誤解しているのだ。



「リュカから、好きだと……言われましたか?」


 おかしなことをサクは言う。

 憎まれて呪詛をかけられていることを知っているくせに。


「そんなはずないじゃない! リュカは……」



「……拉致したのは、姫様を守るためだとしたら?」


 サクの瞳が揺れた。



「ゲイは、あの船から蒼陵を滅ぼす気でした。あの船にいれば、少なくとも姫様はその被害にあうことはない。

なによりリュカは、ゲイに黙って先に単独行動をしようとしていました。姫様と俺が居る蒼陵へ、ゲイよりも先に来ようとしていた。それは、姫様の安全を確保するためだとは思えませんか?」


「考え過ぎよ! あたしを護るためだったら、なんであたしを船で襲ったの!?」


「ゲイから護るだめだったら?」


「え?」


「……リュカが味見した姫様を、ゲイはすぐに食べようとしない……。だから、姫様への欲を抑えさせるために、わざとそうしていたのだとしたら?」


「そんな!」


 否定しながらも、ユウナは……智将らしからぬ情欲にとらわれたリュカの振る舞いが、それで納得いくものを感じていた。


 わざと、だったのだとしたら。


「リュカの髪は、チビの攻撃で?」

「違うわ。リュカが突然自分で髪を切ったの。あたしはその意味がわからなくて」


 するとサクは、悩ましい顔をしてから天井を仰ぎ見た。


「やはり……。姫様、リュカは戻って来て、こう言ったんです。チビの特殊な笛で攻撃されたから、姫様を連れられなかったと……」
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