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吼える月
第30章 予感
「よし、じゃあ朝餉を食いましょうか」
サクは何事もなかったように振る舞っているが、傷から自身を守るために、いつもより素っ気ない態度でユウナに接した。
「喧嘩でもしたの?」
それにいち早く気づいたのは、イルヒ。
「おいおい、どこが喧嘩しているように見えるんだ?」
「んん……猿はお嬢をあまり見ようとしないし、お嬢はなんか…猿を見る目が違う」
「イルヒ、あたしもサクと喧嘩していないわよ?」
「……猿に、言ったんだよね? お嬢」
その時、イルヒが爆弾を落とした。
「言った? なにを?」
それを拾ったのはサク。
「"いい話"、猿にしたんでしょう?」
サクから奪い取った爆薬に、イルヒはさらに火薬を詰めて、ユウナに渡す。
「猿が好きって」
きちんと点火するのを忘れずに。
ふたりの視線を強く浴びたユウナは、渡された爆弾を爆発させた。
「いやだわ、まるであたしがサクに愛の告白をするみたいじゃないの」
表情を翳らせたサクは気づかない。
ユウナが、無意識に…どこか焦ったように声を裏返すのを。
"いい話"のことについては、ユウナは記憶にあった。
だがサクに、なんの話を伝えようとしていたのか…それが思い出せずにいるユウナは、明るく冗談のように言った言葉とは裏腹に、なにかざわざわとした胸騒ぎを感じ、性急にその内容を知りたいと思っていた。
"いい話"の内容を、知らなくてはならないような――。
サクへなんの話をしようとしていたのだろう。
イルヒは、それを知っているというのか。
サクのことは誰よりも大好きだ。だがそれは恋愛感情ではないと、かなり焦って条件反射のように否定してしまったユウナ自身も、言い切った後の余韻は、なにか気まずいものがあった。
サクに想われているとわかっていて、なんでサクを傷つけるようなことを、口から出してしまったのか。
だから知りたい。
焦って隠したサクへの"好き"が、どんな種類のものなのか。
多分それを、イルヒだけが知っているはずだから――。